TOP> メッセージ > 金石文の解き方 一覧 次項 前項 戻る  


安本美典  

金石文の解き方

(季刊邪馬台国88号 巻頭言)



季刊邪馬台国88号
十九世紀初頭のアメリカの小説家、エドガー・アラン・ポウに、『こがね虫』という短編小説がある。

『こがね虫』には、ルグランという男が登場する。ルグランは、羊皮紙にかかれた暗号文を解読して、海賊キ ッドの宝物をみつけだす。

ルグランは、つぎのようにして解読していく。英語の文字を、使用頻度の高い順にならべると、だいたい、 e、a、o、i、d、h ・・・のようになる。

英語では、eが一番多く用いられることと、eeという続きかた の多いことから、まず、羊皮紙の8という記号がeであると解く。

つぎに、48というくみあわせが、何度もあ らわれることから、それに、英語でもっとも多く用いられるtheという単語をあてはめる。 ・・・

金石文の読み方にも、暗号解読学の原理を、応用すべきである。

石や刀などに刻まれた文字は、たいていのばあい、剥落したり、摩滅したりしている。そのため、読めない 文字がでてくる。

読めない文字は、信念や着想の面白さなどによって読むべきではない。

前後の読める文字から、どの文字のあとやまえには、どのような文字が来やすいかなどを、考慮して読む。 統計学的にいえば、どの文字のあとには、どの文字が来やすいかなどの、推移確率(遷移確率)にもとづいて、 なるべく、客観的に読む。

あるいは、全体的な文脈から、使用される確率の高い文字を考える。

文章は、一定のリダンダンシイ(冗長度)を持っている。必要最小限の、文字で記されているわけではない。 国の名前が記されているような文脈のなかで、「アメ□カ」という語の□のなかを推定せよ、といわれれば、当 然□のなかの文字は、「リ」となる。「ア□リカ」ならば、□のなかは、「メ」なのか、「フ」なのか。国の名前 に限定されるならば、「メ」となる。

答えが一つに定まらなくても、どの文字である確率が大きいかを検討することはできる。

金石文解読学は、客観性をもった科学をめざすべきである。



  TOP> メッセージ > 金石文の解き方 一覧 次項 前項 戻る