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「邪馬台国=畿内説」「箸墓=卑弥呼の墓説」の虚妄を衝く!

「邪馬台国=畿内説」「箸墓=卑弥呼の墓説」の虚妄を衝く!

よそおいは「科学的」、内容は「支離滅裂」!

歴博の研究グループの「炭素14年代測定法」による「箸墓古墳は卑弥呼の墓説」は、捏造に等しい!


■ プロローグ
誤りと偽りの「箸墓古墳=卑弥呼の墓説」

箸墓は卑弥呼の墓である−  。つい最近、こんな説が新聞やテレビのニュースで大々的 に報道されるや、大騒動(もはや話題となっているなどというレベルではない)となり、それ はいまも続いている。

いったいなぜ、こんな大騒動か起きたのだろうか。

千葉県佐倉市にある国立歴史民俗博物館(平川南館長。以下、歴博と略す)の研究グルー プが、「炭素14年代測定法」という「科学的な方法」を用いて、奈良県桜井市にある箸墓 古墳が、ほぼ邪馬台国の女王卑弥呼が死んだとされる西暦240〜260年ごろに築造さ れたことが推定できた、と発表した 。

ところが、このような「推定」が科学的には成立しえないとするデータや根拠が、他の 研究機関や研究者から、同じく炭素14年代測定法を用いて、すでにいくつも報告されてい る。ただそのような報告は、マスメディアで報じられていないだけである。

いま、「箸墓古墳は卑弥呼の墓である」という仮説を「歴博仮説」と呼ぶことにしよう。 すると、歴博仮説は成立しえないという、歴博仮説に対する明確といってよい反証が、い くつも挙げられる。どうも他の機関や研究者が、歴博の研究グルーグの一連の炭素14年代 測定法の研究結果に対して、有力な反証や批判を提出するたびに、この種の騒動が意図的 に引き起こされているようにみえる。

歴博の研究グルーグは、反証や批判が報告されると、その反証を押し潰すためにマスメ ディアを巧みに動員しているのではないか? 歴博仮説にとって有利な結果がまたも得ら れました、と大報道に持ち込むことによって批判や反証を封じようとしているのではない か? こんな疑念が研究者たちの間で広がり、波紋は大きくなりつつある。

マスメディアでの華やかな大宣伝のすぐあと、2009年5月31目、早稲田大学で 歴博の研究グループは、「箸墓古墳は卑弥呼の墓である」説を強い確信の言葉とともに述 べた(発表者は春成秀爾氏を中心とするメンバーである)。

ところが、その発表会の司会者で、日本考古学協会理事の北條芳隆東海大学教授が、そ のとき、報道関係者に次のような「異例の呼びかけ」を行ったことを、『毎日新聞』が報 じている。

「会場の雰囲気でお察しいただきたいが、(歴博の発表が)考古学協会で共通認識になっ  ているのではありません」(『毎日新聞』6月8日付夕刊)

そして、北條教授はその後、自身のヤフーのブログで次のように記している。
  • 「私がなぜ歴博グループによる先日の発表を信用しえないと確信するに至ったのか。そ  の理由を説明することにします」

  • 「問題は非常に深刻であることを日本考古学協会ないし考古学研究会の場を通して発表  したいと思います」

  • 「彼らの基本戦略があれだけの批判を受けたにもかかわらず、いっさいの改善がみられ  ないことを意味すると判断せざるをえません」
「歴博発表」は信用できない、これは事情をよく知る学者、研究者たちの間で広がりはじ めている共通認識のようにみえる。

それは、歴博研究グループが発表した際の会場の雰囲気や、続出した質問などからもう かがえる。ここで、「続出」という言葉を用いたが、これは私の判断ではなく、『毎日新聞』 も「会場からはデータの信頼度に関し、質問が続出した」と報じている(2009年6月 1日付)。

「旧石器捏造事件」(2000年11月5日、『毎日新聞』が旧石器の捏造をスクープした)が起 きた際、国士舘大学イラク古代文化研究所の大沼克彦教授は、強い言葉でこう警告してい る。

「私はマスコミのあり方に異議を唱えたい。今日のマスコミ報道には研究者の意図的な  報告を十分な吟味もせずに無批判に、センセーショナルに取り上げる傾向がある。視聴  率至上主義に起因するのだろうが、きわめて危険な傾向である」(立花隆編著『「旧石器発  掘ねつ造」事件を追う』朝日新聞社、2001年刊)

この言葉は、ほぼそのまま、今回の騒動にもあてはまる。「年代捏造」という、第二の 旧石器捏造事件であるといえるのではあるまいか。

マスメディアは、論理的な検証の報道よりも、「箸墓は卑弥呼の墓である」などという センセーショナルにみえるものに飛びつきがちである。そしてマスメディアで大きく報道 されると、一般の人は思わず、「そうか、邪馬台国は畿内で決まりか」と信じてしまう。

マスメディアが歴博に踊らされているという構造、状況は、旧石器捏造事件とよく似て   おり、同じような失敗、そして予想もできないような展開がまた繰り返されようとしてい るように思える。私たちは、再現性のないデータ(他の人がたどったのでは同じ結果の得ら れないもの)による、虚説の流行を許してはならない。

宮城県栗原市の築館の上高森遺跡が60万年前、埼玉県秩父市の小鹿坂遺跡が約50万 年前の前期旧石器時代の遺跡と報道したのは、ついこの間のマスメディアであった。

しかし、それらは「空中楼閣」であった。藤村新一氏らの「発見」する旧石器に対する 小田静夫氏、竹岡俊樹氏ら考古学者の疑問の声を、事前にまったく取り上げなかったのも、 マスメディアであった。わずかに『毎日新聞』のみがこの少数派に耳を貸し、検証した。 私たちは、ついこの間起きた事件も教訓にしないようであってはならない!

それでは歴博仮説に対しては、どのような反証、批判が挙げられるのか、それを以下に 徹底解明してみよう。まず、第一部で歴博の研究グループが使った炭素14年代測定法のデー タ処理などの誤りを指摘し、第二部では箸墓古墳の築造年代は三世紀ではなく、四世紀の 半ばであることを検証する。箸墓古墳は卑弥呼の墓ではありえない。なお、私は「邪馬台 国=北九州説」の立場であるが、「邪馬台国=畿内説」の専門家でも、「歴博仮説」批判の 立場の人は多い。


■エピローグ
これは第二の「旧石器捏造事件」だ!

月刊『文藝春秋』の2009年8月号に、明治大学名誉教授で考古学者の大塚初重氏、 京都大学名誉教授で古代史家の上田正昭氏、佐賀女子短期大学学長で考古学者の高島忠平 氏の三氏による鼎談が載っています。

「再燃『邪馬台国論争』 卑弥呼の墓はどこだ」と題するものです。その冒頭で、大塚氏 は次のように述べています。

「大塚 去る5月29日の朝日新聞の一面に『やっぱり卑弥呼の墓?』という見出し で、奈良県桜井市にある箸墓古墳の空撮写真が掲載されていたのを見て、魂消ました。『箸 墓古墳は卑弥呼の墓?』という報道はNHKでも流れましたから、邪馬台国が畿内か九 州かという論争がついに決着したのか、と思った方もいたでしょう。

……そもそも今回の報道はフライングでした。普通は学会発表があってから、報道が流れるわけですけど、その順序が逆になってしまった」

この大塚氏の発言にも、歴博の発表内容または発表の仕方に対する疑問の雰囲気がうか がわれます。

この本で私は、歴博の研究グループの発表がほとんど根拠らしい根拠をもっていないこ とをやや詳しく述べました。その発表の根拠をほぼ明確に否定するようなデータかあるこ とを検証しました。「箸墓古墳=卑弥呼の墓説」という歴博の研究グループのパラダイム(も のの見方)は、現在ほとんど崩壊しています。

まったく根拠をもたない、世間を瞞着するような新聞発表も行っています。歴博の研究 グループに操作され、いまだに歴博の太鼓を叩いているマスメディアもあり残念です。

今回のマスメディア騒動は、「箸墓は卑弥呼の墓」だと、箸墓古墳という特定の古墳を 指定したことに強いメッセージ性がありました。

それにしても、なぜこのようなことがたびたび起こるのでしょうか。

今回の歴博の研究ゲループの「箸墓の年代捏造事件」と先の「旧石器捏造事件」とは、 その構造がひどくよく似ています。私はほとんど、第ニの「旧石器捏造事件」と呼んでも よいほどだと思います。

双方がよく似ている点を挙げれば、次のとおりです。
  • 特定の学者または学者グループが抱いた学説(仮説)があり、その学説に合うように、 「石器」や「年代」がつくられていく。一見、客観的証拠に基づくような体裁がとられる。

  • 学会での検証・検討よりも先に、マスメディアヘの発表が行われ、異論や反論が出 にくいように世論形成が行われる。あるいは、マスメディアを利用することによって、反 論を潰す方法がとられる。

  • 他の研究機関や学者たちが、当該機関や学者の出した仮説に反するような事実や測 定値をすでに提出していても、ある時期までは当該機関もマスメディアも、それを取り上 げない。当該機関や学者たちの一方的な見解のみが報道されるという事態になる。

    この本のプロローグで紹介した国士舘大学教授の大沼克彦氏の意見のように、「今日のマスコミ 報道には研究者の意図的な報告を十分な吟味もせずに無批判に、センセーショナルに取り 上げる傾向がある」という状況になる。

  • 仮説を抱いた中心となる学者たちは、国の機関の学者、研究者、役人であり、膨大 な金額の研究費(国民の血税)を受け取ることや予算の配分問題が関係している。国家財 政逼迫の折、すでに何人かの他の学者たちが、この構図のおかしさを指摘している。

  • 膨大な金額の研究費(国民の血税)は、結局、少数の学者たちの抱いた学説(結果 的には誤っている学説)を「立証」する目的で費消される。AMS測定法(微量の試料で炭 素14年代測定のできる方法)による測定費用は、かなり安くなってきている。どこの組織で も、試料の測定をしようと思えばできるようになってきている。歴博ばかりに多額の調 査研究費をつぎ込むのはきわめて危険である。

    他の機関の、はるかに低額な費用で行われた遺跡・遺物のコントロール(調整)調査や、 他の学者たちの検討による論証性のおかしさの指摘や、あるいはマスメディアのカメラ(旧 石器握造事件の場合)などが、やがてその学説の虚構性を明らかにし、その学説を突き崩し ていく。

  • 事実や証拠を付き合わせて検証していけば、マスメディアで大報道されたことが、まっ たくといってよいほど信頼できない、というようなことが起きる。一般の人が、ちょっと 信じられないような事態になる。
お先棒を担ぎ突っ走るマスメディア関係者もいるでしょうが、同じような経験を繰り返 せば、やがてマスメディア関係者も読者も賢くなっていくでしょう。はなはだしく無駄の 多いプロセスですが。私は、事実をみていないこのようなやり方にはゆきすぎがあると思 うので、強く警鐘を鴫らす意味で、この本を書きました。

ただすでに、『毎日新聞』は三回(2009年6月1目、6月8日、7月28日付)にわ たって歴博発表への批判的記事を載せ、『産経新聞』(2009年7月1日付)、『西日本新聞』 (2009年7月17日付)も批判的記事を載せています。また、『日本経済新聞』(2009 年7月4日付)は、かなり慎重な記事を載せています。

この本は数字や図表がたくさん出てきたりして、あるいは読みにくかったことでしょうが、最後までお読みいただいた読者の方々に、厚く御礼申し上げます。なお、本文中、故 人には敬称を略させていただきましたことをお断りします。また、引用させていただきま した関係者各位に深甚の謝意を表する次第です。

末尾になりましたが、この本の刊行にあたりまして、宝島社の佐藤文昭部長には特別の ご配慮をいただきました。ここに記して御礼を申し上げます。

2009年8月   安本美典



             


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