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第223回 特別講演会

特別講師 奥野正男先生

 

 旧石器捏造・誰も書かなかった真相        奥野正男

講演中の奥野正男先生
1.旧石器捏造事件の現状
  • 事件発覚からまだ3年しかたっていないのに、藤村新一ただ一人に罪をかぶせたまま忘れられようとしている。
  • 藤村が関与した遺跡のみを2年半かけて再調査したが、なにも出てこなかった。捏造された遺跡からなにも出ないのは当然である。
  • 25年間発掘を行ってきた東北旧石器研究所が解散した。資料や証拠品が散逸し隠される可能性がある。

2.藤村ひとりを断罪することへの疑問
  • 藤村は発掘現場の一作業員。論文も読めないし石器の図面も書けない。25年間藤村一人で捏造が続けられるわけがない。
  • 25年間に160以上の発掘現場で、専門家である現場監督の誰ひとり藤村の捏造を見抜けないなんてことはあり得ない。
  • 藤村の手記は、黒塗りされてしまったが、共犯者がいたことをにおわせる記述がある
  • 京都女子大学の野田正彰教授(精神病理学)は、悪の主役は藤村以外にあると次のように述べる。

    彼(藤村)の話には真実もある。マスコミや周囲の期待に応えたかったというのは正直な気持ちだろう。しかし、徹底的に開き直れるほどの悪人ではない。そういう人間を利用し、暗黙のうちに捏造をそそのかした取り巻きや従来の旧石器考古学界こそ、この問題を引き起こした悪の主役だ。
    (毎日新聞2004年1月26日)

3.捏造事件周辺の疑問の数々
  • 岡村道雄氏の提唱した旧石器についての仮説にぴったり合致する石器ばかりが藤村によって発掘される。 そして、岡村氏は自ら現場監督を務めた座散乱木(ざざらぎ)遺跡の報告書の中で、 藤村の発見によって自説が完全に証明されたと宣言した。
    捏造を指示、あるいは、捏造をそそのかし、岡村氏の学説に合致する石器を用意した専門家の存在が想定される。

  • 藤村の発掘で、一つの穴から、革をなめした使用痕のある石器が7個見つかって、別の穴からは骨を砕いた使用痕のある石器がまとまって出たという。藤村には、使用痕を弁別し使用痕ごとに石器をまとめて埋めるのは不可能。当時、日本に一台しかない最先端の金属顕微鏡で石器の使用痕研究をしていた東北大学の使用痕研究会のなんらかの関与が疑われる。東北大学の学者は見解を明らかにするべきである。

  • 捏造石器からナウマン象の脂肪酸を検出したという研究結果が、帯広畜産大学から報告され、捏造石器の信憑性の補強に使われた。国立歴史民俗博物館館長の佐原眞は、この情報によって、反対意見を発表した小田静夫氏を名指しで批判し、旧石器発掘に対する反対意見を封じ込めた。捏造石器にナウマン象の脂肪酸が付くわけがない。捏造を補強する共犯者といわれても仕方がない学者たちがいたことになる。 
    国の機関が、反対意見を名指しで批判し、力ずくで発言を封じてしまうのは学問の世界では異例のことであった。    ( 小田静夫氏の論文 >> 

  • 藤村の捏造石器をもとに、東大の教授、助教授などが次々に論文を発表したが、彼らが提唱する理論考古学という分野は、捏造石器でしか証明できない全くの空論であることが明らかになった。権威のある学者が捏造を見抜けないで誤った論文を次々に発表してきたことは、これらの考古学者がまったく石器を見る目を持たないことが証明されたばかりでなく、東大の権威によって学界全体を誤った方向に導いていった大きな責任がある。

  • 藤村が捏造した石器は全国で3000点にのぼるといわれる。また、宮城県の博物館の報告書によると宮城県で発見された旧石器は850個に達するとされる。この数は、とても藤村一人で埋められる数ではない。
    捏造事件が発覚した時、宮城県の歴史博物館の報告書では、「藤村が関与していない旧石器を我々の手で数多く発掘している。だから、これらの石器は捏造ではあり得ない。」と記す。
    藤村以外にも石器の捏造に直接関与した人々がいたのは確実である。藤村以外の誰が石器を埋めたのかを一番よく知っているのはこの博物館の人たちであろう。

  • 宮城県の発掘関係者のあいだでは、ローム層の露頭から旧石器を探すのに「等間隔の法則」というのがあるんだよと、内輪でささやかれていたという。捏造が行われていたことは旧石器研究者の間では周知のことであった。

  • 通常、発掘現場の監督は、石器が発見されたときに発見状況の詳細を示す写真の撮影を指示する。しかし、捏造石器の発見現場では、遠景から石器の位置を竹串で示した写真があるだけで、石器が地中から現れた時の写真がまったくない。これは、写真を撮らずに石器を抜き取ることを現場監督が容認していたことを意味する。現場監督が捏造に荷担したと言われても仕方のない常識はずれの発掘であり、現場監督の責任が問われて当然である。
4.捏造事件の本質
  • 旧石器捏造事件とは、藤村が考古学者をだました事件ではなく、考古学者が藤村を利用して国民をだました事件である。
5.責任

事件の本質に迫る奥野正男先生 藤村の捏造を「教唆」「協力」「利用」「容認」したと思われる関係者が多数存在する。これら関係者の責任が問われるべきである。
  • 藤村を「特殊能力の持ち主」などと賞賛し藤村の捏造石器によって自らの仮説を証明して、その実績により文化庁の課長クラスまで上り詰めた岡村道雄氏。
  • 藤村の捏造石器に基づいて前期旧石器時代を描き、理論考古学を標榜して日本の考古学をミスリードした東大の学者たち。
  • 捏造に荷担しあるいは捏造を容認したその他の関係学者
また、考古学協会は次のような活動で、藤村一人に責任を押しつけて事件の本質を隠蔽し、責任を負うべき考古学者を無罪放免しようとしている。
  • 藤村関与遺跡以外の遺跡については調査をせず、藤村以外の関与者の究明を行おうとしない。
  • 捏造石器を利用したり藤村を賞賛して本来責任を問われる立場である考古学者が、裁く側の立場となって、藤村関与遺跡を調査している。
  • あまりの生々しさに戸沢充則氏が絶句したという藤村の告白文の全文を公表しない。
  • 藤村の精神鑑定すら行わずに藤村を精神障害と断定し、精神病院に隔離してしまった。
  • 「旧石器捏造事件」をアメリカ考古学会で報告したが、ただ単に藤村が捏造した事件であるとい う事実の報告だけで、本質は伏せられている。
85年の考古学協会奈良大会で、「極東旧石器文化の編年」が発表され、馬場壇A、中峰Cなどの捏造遺跡が、北京・周口店13洞と並んで10〜30万年前に編年されるとした。

この編年は、中国・朝鮮など東アジアで出土した旧石器と比較しても非の打ち所がない旧石器が日本にあり、北京原人が発掘された周口店の石器と宮城県の中峰遺跡の石器が同じ時期のものと認定したものである。考古学協会が岡村道雄氏の仮説を公式に肯定したことになる。 奥野正男先生の著書「神々の汚れた手」
梓書院刊

考古学協会のこのような動きは、論文も書けない藤村に欺されたということでは済まされない。考古学協会が藤村の捏造石器を活用して自らの判断で岡村氏の仮説を押し出すためにこぞって協力したことを意味する。

考古学協会は自らの犯した誤りを認め責任を明確にするべきであろう。

6.今後

関与した考古学者の責任を一切問わずに、論文も書けない藤村一人を断罪することで済ませるわけにはいかない。このまま終わらせてしまっては、日本の考古学の未来はない。

『神々の汚れた手』の出版や、各地での講演会などを通じてこの問題を訴えていくが、重要なことは、すべての関係者が口を開き、真実を記録し公表することである。沈黙している考古学者の発言を期待している。


奥野先生の著書『神々の汚れた手』は、「毎日出版文化賞」を受賞しました。 >>

詳しくは奥野先生のホームページ「古代史の窓」へ  >>  http://www.okunomasao.com


 旧石器捏造事件について       安本美典

季刊邪馬台国82号で「旧石器捏造事件」を特集した。そこに掲載された論文へのリード文で、安本先生は捏造事件について次のように述べている。

まず、角張淳一氏の論文「旧石器捏造事件の構造」のリード文。

「真実」であるという世論が形成された状況下で、あれらの石器がインチキであると反論することは、通常の神経では、とてもできない。

考古学界と世論から袋だたきにあうことは必至である。

なぜこのような状況が現出したのか。話は、単純であるとは思えない。

当時の外国の最先端研究(使用痕分析。図入りの原論文は仏文という)を読み、当時のわが国の考古学の最先端研究を知り、かつ用いうるものが、旧石器の捏造に関係しているのではないか。

犯人は藤村一人なのか。

また、同じく戸田正勝氏の論文「七曲遺跡捏造への背景」のリード文。この文中の善意の第三者とは論文の筆者戸田氏を指す。

旧石器捏造事件は、犯罪である。

捏造犯・藤村新一らとともに、栃木県那須町の七曲(ななまがり)遺跡を踏査することになった筆者は、そこでなにを見、なにを経験したか。

捏造劇の一場面を臨場感をもって再現する貴重なレポート。読者はこのレポートから何を読み取るか。

専門家の集まった踏査で、石器が発見されても、写真もとらずに、グループで引っこぬく。疑われても仕方のない奇妙さ、乱暴さ。善意の第三者に、捏造遺跡の速報を書かせている。見方によっては「巧妙」ともいえる「事件の構造」に着目すべきである。

この計画性は、「闇」の大きなひろがりを示していないか。

奥野先生や角張淳一氏、戸田正勝氏たちによる、捏造事件の本質と関係者の責任を明らかにしようとする活動に対して、活動を止めるようさまざまな圧力がかかっているという。

旧石器捏造事件は、現行犯・藤村新一だけの事件ではなく、やはり、背後に大きな「闇」があるようである。



 「卑弥呼の鏡」中国製を示唆する新聞記事について       安本美典

2004年5月15日の夕刊各紙に、次のような見出しで三角縁神獣鏡が中国製であるかのような記事が一斉に掲載された。 この記事は、京都市の泉屋博古館(せんおくはくこかん:樋口隆康館長)所蔵の三角縁神獣鏡を含む各種の鏡の微量成分を世界最大級の放射光分析施設で分析した結果に基づく。

これについて安本先生は次のように問題点を指摘し、詐術(インチキ)のようなものだと述べる。
  • 三角縁神獣鏡の材料が中国の鏡と一致したことと、三角縁神獣鏡が中国で作られたこととは別である。にもかかわらず、材料の一致が、三角縁神獣鏡が中国製であることを示すかのように意図的に話を混同させている。
  • 泉屋博古館所蔵の鏡は樋口館長が中国製と判断しているだけで、ほとんどが出土地不明の鏡である。中国出土の鏡は数多くあるのに、中国出土の鏡を一枚も使わずに出土地不明の鏡を資料にして分析し、三角縁神獣鏡の制作地の検討材料にするのはおかしい。
  • 学問的にきっちり検証する前に、マスコミに流してしまう方法は、以前も樋口氏が行ったやり方であるが、このようなやり方は、一般のひとに誤った先入観を与えてしまう。学問とは別の世界の意図的な世論操作である。
泉屋博古館の発表について、考古学者の森浩一氏は次のように述べる。

泉屋にある出土地不明の鏡をデータに使うだけでも、レベル以下だとわかりそうですが、マスコミは簡単にPR(高い装置の)に乗りました。

(マスコミからのコメント依頼に対して)この件では、各社のコメントに名前が出るだけでもはずかしいと断りました。

この件については、次回の講演会で詳しく解説する予定。


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