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福武書店
日本語はどのようにつくられたか

日本語はどのようにつくられたか 日本人のルーツばかりでなく、
日本人と日本文化の特質はどこからきたかを、
地球物理学・考古学・民族学・民俗学・歴史学・
人類学・宗教学・神話学・言語学など
多くの研究分野が絡み合いながら
学際的に解明する画期的な試み!



 本書「はじめに」より
私たちは、いま、日本語を使っている。この日本語は、いつごろから、 どのようにして、日本列島で使われるようになったのだろうか。

この本では、日本人ならだれでもがもつ、このような問いに対して、 答えてみようと思う。

日本語の起源についての研究は、江戸時代から行われてきた。多くの 考えがあらわれ、多くの議論が行われたが、この問題は、ほんとうに難 問であった。

ある人は、日本語は、朝鮮半島をわたり、対馬海峡や玄海灘を越えて、 北の方からやってきたと考えた。ある人は、琉球列島をつたい、黒潮に のって、南の方からやってきたと考えた。また、ある人は、東シナ海を 直接横ぎり、中国の揚子江の下流域から、稲作とともにやってきたので はないかと考えている。

しかし、日本の北にも、南にも、日本列島の外には、日本語の一種と みてもよいような言語が使われている地域は、存在していない。

そこで、ある人は、日本語は、洪積世(旧石器)の昔から、日本で使われ、 独自に発達してきたもので、の本の周りの言語とは、ほとんど 関係がないと考えている。

日本語は、世界の言語のなかで、まったく孤立した言語なのだろうか。 しかし、「私は、本を、読む」という単語を並べる順番とか、いくつ かの基本的な単語が、日本語と似ている言語は、日本語の外にも存在し ている。

日本語の起源について考えるためには、まず、日本語そのものについ て、知っていなければならない。また、言語とはなにかについての基 礎知識も、もっていなければならない。日本語のまわりの諸言語や、世 界の諸言語のようすも知っていなければならない。日本人や日本文化 についての知識も必要である。

一つ一つのことがらを、分析的に調べることも必要であるし、また、 多くのことがらを整理し、まとめることも必要である。 一人の人間の力で、日本語の起源をさぐるのは、ほんとうにむずかし いことが、お分かりいただけるだろう。そのため、この本を書くのにも、 多くの人のお世話になった。

また、最近は、コンピュータの普及発展がめざましい。多くのデータ をコンピュータにいれ、コンピュータのなかで、分析したり、計算した り、まとめたりすることが、可能になってきている。

多くの言語についてのデータを、コンピュータにいれ、日本語と朝鮮 語との近さの度合い、日本語とアイヌ語との近さの度合い、日本語とイ ンドネシア語との近さの度合い、……などを計算することが可能になっ てきている。

この本では、これまでの日本語の起源研究を振りかえり、さらに、も つとも新しい方法を紹介してみた。日本語と、60ほどの世界の言語と の近さの度合いを、数字ではかった結果も紹介してみた。

私たちは、なにごとによらず、ものごとの起源を知りたいと願う。私 たちが、日本の古代の姿を明らかにしたいと強く願うのは、日本人が、 日本人であることの意味を知りたいという強い願望によってささえられ ているとみられる。それは、ふるさとを遠くはなれた人が、ふるさとを なつかしがる気持ちにも似ている。

日本語の起源の問題は、ロマンあふれる問題であるが、まだまだ解け ていないところが多い。

この本がきっかけになって、一人でも多くの若い人たちが、日本語の 起源の問題に、興味をもっていただければ幸いである。

昭和61年3月10日  安本美典



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