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PHP文庫
人づきあいの心理学  (文庫版)

人づきあいの心理学 私たちの一生は人づきあいの連続である。人とのつきあいなくしては日常生活さえ成り立たない。 でも、これほど難しいものもない。
そこで本書は、人づきあいにおいて知っておくべき基本を心理学的視点からまとめあげた。
職場から家庭まで、豊かな「人間の輪」を築くための必読の書である。



 文庫版への序文
松本順氏の解説をいただいて、この本が新しい装いをとることになるという。

著者にとって、みずからの書いた本が、より多くの人に読んでいただけることは、、うれしい ことである。

この『人づきあいの心理学』は、私がこれまでに書いた30冊近くの本の中で、二番目によ く売れた本である。

その後も、いくつかの出版社から、この本と同じテーマでの本を書かないかとの、お誘いが あった。

しかし、この本以後は、同じテーマでの本を書くことを遠慮させていただいている。 それは、次のような理由にもとづく。

この本は、私が長年考え、蓄積してきた資料にもとづき、私なりの総力をあげて書いた。同 じテーマで、この本と同じていどの密度をもつ本を、しばらくは、書ける自信がもてないので ある。

よく売れ、いくつかの出版社からお誘いがあるということは、「人づきあい」についての、 人々の関心が大きいということであろう。

私は、とくに若いとき、「人づきあい」が、けっして得意な方ではなかった。不得手な方で あった。よかれと思って行なったことが、誤解をうけることも、しばしばであった。

そのために、私は、「人づきあい」について、真剣に考えるようになった。 一般に、ある道についての、生まれながらの天才は、教え方が、必ずしも上手ではないとい われる。

天才は、ほとんど努力なしでできてしまうので、他の人が、なぜできないかが、理解できな いからである。

これに対し、鈍才は、みずからが、何度もつまずき、そこで考え、試行錯誤をしながら前に 進むのである。そのため、どこで多くの人がつまづきがちであり、そのばあい、どうすればよ いかがわかるのである。

この本は、「人づきあい」についての鈍才が書いた「人づきあい」の本である。 世の中に、天才はすくない。鈍才の書いた本も有用性をもちうるのは、そのゆえと思ってい る。

ものごとに上達するための一つのコツは、失敗したばあいでも、成功したばあいでも、なぜ そうなったかを、「考えてみる」ことである。

私も、「人づきあい」の力を、さらに向上させたいと思っている。私は、心理学を専攻とし ている。そこで、私じしんの多くの失敗、多くの成功、そしてまた、私が見たり聞いたりした 多くの失敗、多くの成功、それらを、心理学の立場から、整理し、「考えてみる」ことにした。 それがこの本である。

よい機会なので、私じしんの「人づきあい」の力を伸ばすために、この本を書いたようなと ころがある。

ここで、整理し、「考えてみた」ことが、読者の日常生活で、参考になったり、ヒントにな ったりすれば、幸いである。

昭和61年5月   安本美典


 はじめに(旧版)
あなたは、「青い熊」の話をご存知であろうか。といっても、本当の「青い熊」の話ではな い。

社会人であれば、職場で、つらいことや、面白くないことに出合うことが、たびたびあると 思う。とくに、人間関係がうまくいかなくなったりすると、職場が、地獄になる。

そんなとき、簡単なことばが、あなたをなぐさめ、元気づけてくれることがある。

あなたの努力が、認められないときがある。思わぬ失敗をすることもある。そんなとき、反 省はしなければならないが、くさってはならない。つらい気持ちのとき、「気にしない、気に しない」と、二、三度つぶやく。すると、心が不思議に晴れやかになる。

人間は、スローガン的な短い言葉によって、暗示をうけ、なぐさめられたり、元気づけられ たりする。

つらい思いや、面白くない思いを、いつまでもためていては、さらに面白くないことが起き てしまう。

あなたにおくる最初のことば……。
  • せるな
  • こるな
  • ばるな
  • さるな
  • けるな
頭文字をとって、「あおいくま(青い熊)」とおぼえる。これは、住友銀行の堀田庄三名誉会 長(相談役)が、新入行員に対する挨拶で述べられていた言葉である。

人生、辛抱である。短距離レースではなく、長距離レースである。「青い熊」であれ。いつ も、若々しく、たくましい熊であれ。あせってはいけない。くさってはいけない。まけてはい けない。

堀田庄三氏は、学生時代、二度も病気をし、普通よりも5年遅れて、27歳で大学を卒業し た。入社後も、けっして順調ではなかった。が、人並以上の努力に花が咲き、20年近く、頭 取をされた。

頭取時代も、電車を利用、簡素な生活をし、真実をつくす人であった。

あなたのための第二のことば……。
  • 「一隅を照らす」
ひとつの、隅を照らすということである。これは、伝教大師、最澄のことばである。伝教大 師は、「一隅を照らすものは、これすなわち国宝なり」と述べている。

あなたは、人を支配することはできないかもしれない。経済的に恵まれていないかもしれな い。

しかし、あなたのまわりを、照らすことはできる。ちょっとしたほほえみ。ちょったしたこ とば。ほんの小さな親切。人間に対するやさしい心。あなたのまわりが、ぼんやりと、いつも 明るく、輝いているように、心がけようではぬいか。「ろうそく」は、「こんなに蝋(ろう)がなくなっ て」と思いわずらい、身を焦がすためにあるのではない。まわりを照らすために存在している のである。

私たちの一生は、人づきあいの連続である。人づきあいを考慮にいれなくては、政治も、企 業経営も、教育も成り立たない。

しかし、この人づきあいほど、むずかしいものはない。十人十色というが、一人一人は、こ の宇宙で、ただ一つの存在である。一人一人が、独自の存在である。

一人一人が、特殊な能力を持ち、性格を持ち、好みを持ち、価値観を持って生活している。 それをよく知ることは、それほどやさしいことではない。

Aの人について成り立つことが、Bの人について成り立つとはかぎらない。Aの人は、Aの 人なりの、Bの人はBの人なりの行動の傾向や、心の動きの傾向を、持っている。しかし、比 較的多くの人について成り立つ共通の心の法則もあるだろう。

私たちは、人を知って、人づきあいをしているのであろうか。仕事をしているのであろう か。わが子を教育しているであろうか。家庭生活を送っているであろうか。

孫子は、「彼を知り、己を知るものは、百戦あやうからず」といった。

人づきあいを考えるためには、自分を知り、また、相手を知らなければならない。

自分を知り、相手を知ることは、この世で生活を送るために必要不可欠のことである。

この本では、主としてビジネスマンの日常生活での人間関係について考えてみた。人間関係 を円滑にすることは、仕事をする上でも、家庭生活をエンジョイするためにも必要なことであ る。

この本は、人づきあいにおける基本的なことがらを、述べたものである。できるだけ多くの 具体例をあげ、それを理論的に整理する形でまとめた。人は、考えることによって、ものごと に上達する。この本は、人づきあいについて考えるポイントを述べたものである。

安本美典



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