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安本美典・野崎昭弘 | ||||
言語の数理 |
本書「まえがき」より |
「言語の数理」は、もっとも新興の、そして、今後の発展のもっとも期待で
きる分野のひとつであろう。しかしそれだけに、その内容はきわめて広いとい
わねばならない。
この本の著者の一人(安本)は、これまで、おもに、言語の研究にたずさわっ てきたものであり、他の一人(野崎)は、おもに、数学の研究にたずさわってき たものである。 この本は、学問的背景の異なる二人が協力して、「言語の数理」についての 一冊の本を書き、相補いあう像を築こうとつとめたものである。私たちのここ ろみが、どのていど成功したかは心もとないが、この本により、この新興の科 学についての、基礎的な考え方を理解し、これまでの成果と、今後の発展の方 向についてのおおよそのイメージとを、つかんでいただくことができれば幸い である。 この本は、その内容が、大きく、「計量言語学」と「数理言語学」とにわか れている。 ここで「計量言語学」は、言語についての諸事実を、数量的に記述する方法に ついての研究、またその方法により記述された結果をさす。統計学や確率論な どが、探究のための主要な武器となることが多い。そして、おもに言語につい ての具体的な問題の解決をめざしている。ただ、「計量言語学」のすべての問 題をとりあげることは困難なので、この本では、おもに、比較言語学における 計量的研究をとりあげ、さらに、日本語の起源の問題について考えた。 一方「数理言語学」(この用語は安本に従う)は、観察された事実の構造や成立 根拠をたずね、それを数学モデルによって、数学的に表現し、把握しようとす るものである。集合論的な考え方、あるいは、組合せ論的な考え方などが、探究 のための基礎となることが多い、そして、おもに言語の形式的な性質、どち らかといえば抽象的な問題の解決をめざしている。ただやはりすべての問題を 網羅することはできなかったので、句構造文法をやや詳しく扱い、変形文法に ついては、他の専門書に譲ることにした。 「計量言語学」の部分も、「数理言語学」の部分も、基礎的な用語や考え方の 説明には、かなりな紙数をとり、この本でとくにとりあげることのできなかっ た「計量言語学」や「数理言語学」の問題に進まれるばあいにも、あるていど のガイドになりうるようにつとめた。 「計量言語学」の部分は、安本が執筆し、「数理言語学」の部分は、おもに野 崎が書いた。そして、原稿の成立後、たがいの原稿に目を通し、ディスカッ ションを行ない、ある部分は書きなおし、調整をはかった。 私たちは、数理的方法による言語研究の進歩を願い、また、その方法・成果 の普及を願うものであるが、そのためにも、さらに多くの隣接諸科学者との協 力への道がひらかれることを願っている。そのような願いをこめて、このささ やかな本を、世に送る。 1976年6月 著者 |
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