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第261回
日本語の起源2
日本語に近い諸言語


 

1.日本語に近い諸言語

■ マライ・ポリネシア諸言語

日本語の起源については、さまざまな問題があるが、今日は、言語の具体例によって、言語がどのようなものか把握してみよう。わかりやすい事例としてマライ・ポリネシア諸言語を取り上げる。

マライ・ポリネシア諸言語は、イースター島からマダガスカル島まで地球半周以上の広い地域に分布している。これらは、史上最大の航海民族マライ・ポリネシア民族の大移動で、広大な範囲に散らばったものである。

マライ・ポリネシア諸言語は、インドネシア語を除けば、ほとんどの場合、文字が存在しなかった。それにもかかわらず、マライ・ポリネシア諸言語に属する各地の言語は非常に近い関係にあり、東京方言と沖縄首里方言程度の違いしかないものがたくさんある。



マライ・ポリネシア諸言語は、オーストラリア、ニュージーランドには先住民族がいたため伝わらなかったが、それ以外の無人の地域には、3000〜4000年前から島づたいに伝わって行ったと思われる。(下図参照)

マライ・ポリネシア諸言語の特徴は、日本語に似ていて2重子音がなく、子音−母音−子音−母音のように音が続く。日本語と違うところは2重母音や3重母音があることである。

なお、現在の日本語は「青い(aoi)」のように2重母音があるように見えるが、「青い」は もともとは「あをし(awosi)」であり、本来の日本語には2重母音はない。



■言語の比較

マライ・ポリネシア諸言語の中にインドネシア諸言語がある。インドネシア諸言語によって、具体的に言語を比較してみる。

言語学者によって分類の手法が変わるので、泉井久之助著『比較言語学研究』に掲載されているインドネシア語、メラネシア語、ポリネシア語の数詞を用いて言語の測定を行ってみる。

表1によれば、台湾の言語には、インドネシア諸言語としてパイワン語(台東州)とピユマ語(南端部)がある。

実際は、平野部には対岸の中国から来た福建語(広東系)や中国から追われて来た蒋介石軍の北京語などの中国語があるので、台湾は3重の言語が存在している。

パイワン語やピユマ語は、中国人によって山地に追いやられたインドネシア系の高山族(昔の高砂族)の言語である。

表1によって、パイワン語とピユマ語の数詞を比較すると、少し違うようだが、よく似ている。語頭音に着目すれば10のうち5つが一致している。

表1の全体を見わたしてみても、語頭音が一致する言語がいくつかある。とくに、「5」は手を表す「lima」としている言語の多いことがわかる。

他の南方諸言語についても数詞を取り出して語頭音について調べると次のようになる。



言語の比較は、主観によるのではなく、つぎのような科学的方法によって行うべきである。
  • 単語の範囲を限定する。
    似ている単語を取り出すだけでは比較したことにならない。たとえば、数詞、人体をあらわす基礎単語などのように、比較する単語の範囲を決めることが重要。

  • どの程度一致したら一致とみなすか判断基準を設ける。
    たとえば、パイワン語はタガログ語とピユマ語のどちらに近いのかという問いに対して、主観にまかせると「1」を表す「ita」と「isa」が似ているという人と、そうではないという人が現れる。

    例えば、「語頭音の一致によって判断する」という基準を設ければ、誰でも客観的判断が出来る。

  • 意味を固定する。
    例えば、「みみ」ということばは、人間の「耳」や、パンの「みみ」の意味を含むように、人によって意味内容が異なって正しい比較ができないことがある。

    意味内容が拡大できないような「単語」で比較することが重要。数詞なら単語が意味するものを固定できる。
上に掲げたインドネシア語派諸語、ポリネシア語派諸語、メラネシア語派諸語について、数詞の語頭音の一致数を調査すると次のようになる。


             表5 一致度の平均値
インドネシア語派メラネシア語派ポリネシア語派
インドネシア語派3.981.931.55
メラネシア語派 3.692.94
ポリネシア語派  4.60

ここから、インドネシア語派諸語、ポリネシア語派諸語、メラネシア語派諸語のそれぞれのグループ内部では一致度が高いが、他のグループとの間ではそれほど高くないことがわかる。

そして、日本語は、これらの言語と語頭の一致がほとんど見られず、どのグループとも離れていることが分かる。

また、表4のデータを因子分析法で分析すると、図1のようになる。ここでは、日本語だけでなく、マダガスカルのホヴァ語も南方諸言語とは離れた言語であることが明瞭に示される。



同様の作業をインド・ヨーロッパ諸言語に対して行った結果が図2である。主観を入れずに機械的に数詞の語頭だけを分析した結果であるが、ゲルマン語族、ラテン語族など、インド・ヨーロッパ諸言語のグループが、言語学者の分類どおりに良く分離されている。



語頭音の一致だけで調査する方法はたいへん素朴な方法に見える。

しかし、東京方言と沖縄首里方言のように、あきらかに同系とわかっている言語について統計的に見れば、最初の音がもっとも残りやすい。

例えば、単語を比較して、「一つの単語に中で3音が一致したら一致」とするような方法も検討してみた。このようにすれば偶然で一致することは極めて稀な事象になる。

しかし、これは一見、良い方法にみえるが一致数が極端に減り、統計処理する場合のサンプルの数が減ってしまうために、分析には不向きである。

語頭音だけの一致を調べる方法は、素朴だが言語比較には適しているようである。



2.日本語と朝鮮語の基礎語彙の比較

■ 基礎語彙

基礎語彙とは、目とか水とか川のように、いかなる未開民族でも持っているような単語のことで、時間が経過しても変化しにくい。「映画」のような文化語は、「活動」、「シネマ」のように短時間で変化してしまう。

このような単語を200単語集めて分析の材料とする。

■ 言語の近さの測定法

シフト法は代表的な測定法の一つで、カリフォルニア大学のロバート・オズワルドが考案した方法である。

シフト法では、比較する言語の基礎語彙200語を並べ、、1段ずつずらしながら語頭音の一致を調査する。

「上古日本語」と「中期朝鮮語」の基礎語彙200語をシフト法によって比較すると、まず、意味が一致する組み合わせで語頭音が一致するものは53語であった。

1段づつずらしながら語頭の一致数を確認すると、199個の一致数のセットが得られる。これら199個の数値は、オリジナルの表から1段ずつシフトしていったものなので、意味は一致しない。

したがって、ここで得られた199個の数値は偶然に一致した数になる。その平均は36.15語であった。

199個の偶然の一致数は下図のように分布する。このときに、意味が一致する組み合わせで語頭音が53語一致したことを統計的にみると、偶然では起こりえないとことと検定される。すなわち、「上古日本語」と「中期朝鮮語」は偶然以上の関係があると判断される。

シフト法は、理解しやすい方法だが、欠点もある。200語のシフトで出来た度数分布が、正規分布になることを前提にして検定する方法なのだが、分布が正規分布になるという理論的な保証が得られていない。



もう一つの代表的な方法である2項検定法は、偶然の一致数が正規分布に従うので、シフト法のような懸念はないが、判定結果がシャープに出ない欠点がある。シフト方で偶然以上の確率で優位差があるとされているものが2項検定法では優位差が見えない場合があって、一長一短であるる。

■ シフト法による比較結果

シフト法によって、さまざまな言語のうち「上古日本語」と偶然以上の一致が見られる言語は右表のとうり。

「上古日本語」は東京方言や首里方言と多くの一致を示すが、日本列島を離れると一致数は激減する。

おもしろいことに、「上古日本語」と「カンボジア語」や、「上古日本語」と「中期朝鮮語」は、偶然以上の一致を示すが、「カンボジア語」と「中期朝鮮語」だけを取り上げてみると、この間には偶然以上の一致は認められない。

これは、右図に示すように、日本語がヨーロッパの言語のように祖語から分裂してきたものではなく、さまざまな言語が流れ込んでできあがった言語であるためと考えられる。

■ 日本語形成のプロセス

古極東アジア語からわかれた古日本語(日本基語)は、はじめ、北九州と南部朝鮮にあり、ビルマ系江南語と結びついて、倭人語(日本祖語)が成立した。

その言語を母胎として、大和朝廷の原勢力邪馬台国が北九州に発生し、大和朝廷の原勢力が南九州におよぶとともに、台湾原住民の言語アタヤル語などと関係をもつインドネシア系の言語の語彙を吸収した。

さらに、その原勢力が東漸し大和朝廷をたて、その力が日本列島の各地におよぶとともに、縄文期に長年月にわたって庶民の間でかなり広く広がっていたインドネシア系の言語や、クメール(カンボジア)系の言語などをも吸収しながら、日本列島を、言語的に統一していった。

また、朝鮮語は、もともとは、現代よりも北のほうで行われていたのが、南下したと考えられる。



ここで、基礎語彙200語ではそれほど強い関係になかったビルマ系の言語(5%水準で有意)を、倭人語の成立に関係したと明示した。その理由は、下表に示すように、身体語だけを取り上げてみると「上古日本語」とビルマ系諸言語が非常に強い一致を示すことから、古日本語にビルマ系諸語がなんらかの関与をしたと想定できるからである。



■ 日本語と朝鮮語の距離

下表によって英語とドイツ語の数詞や身体語を比べてみると、「six」と「sechs」、「seven」と「sieben」、あるいは、「foot」と「Fuss」、「nose」と「Nase」など、語頭音が一致している単語がいくつもある。

日本語と朝鮮語についても、数詞と身体語を比較してみると、「hitotsu」と「hana」
のように一致する例もあるが、英語とドイツ語の関係よりも語頭音の一致例が少ない。

すなわち、二つの言語の近さの度合いは、英語とドイツ語の関係よりも、日本語と朝鮮語のほうが遠いことがわかる。

英語とドイツ語は、およそ2000年前に分離したとされる。日本語と朝鮮語はそれよりもはるか前に分離したことになる。

計算によって求めると、日本語と朝鮮語の分離した時期は、4000年ほど前になる。8世紀に編纂された万葉集などを朝鮮語で解釈できるとするのは、まったくナンセンスである。



2.聖徳太子の墓

聖徳太子の墓は、大阪府南河内郡太子町太子にある叡福寺北古墳である。

従来、この古墳は円墳とされてきた。

しかし、最近の研究では、墳丘は上下2段の構造で、上段を円形、下段を多角形とする直径35m程度の古墳と見て、従来の円墳説の見直しが提案されている。

過去にたびたび侵入があり、内部のようすをある程度知ることのできる古墳である。

『一遍上人絵伝』には、拝殿の奥に横穴式石室の開口部が見え、鎌倉時代には石室内部に入ることが可能な状態であったことがわかる。

埋葬施設は三棺合葬の横穴式石室で、古記録によると、東棺は太子、北棺は太子の母穴穂部間人(あなほべのはしひと)皇女、西棺は太子の妃であった膳部臣菩岐々美郎女(かしわでのおみほききみのいらつめ)が葬られていると伝えられる。

中世の人々はこの三棺合葬の形を阿弥陀三尊に結びつけ、とくに、「三骨一廟」と呼び信仰の対象とした。





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