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第263回 特別講演会
人類の起源  河合信和先生


 

1.人類の起源                                  河合信和先生

■ ヒトの定義

直立2足歩行を行うことである。 直立2足歩行は、哺乳類ではヒトのみの特徴である。一見、直立2足歩行をしているように見えるカンガルーなどは、真っ直ぐ立っていない。

直立2足歩行を行ったことにより、付随的に、犬歯の縮小、ホーニングの消失など、歯が変化した。
(ホーニング:大きな犬歯があることでかみ合わないようになること)      
  • 長所:  @手が自由になった  A脳を大きくできた
         →石器製作へ    
  • 欠点:  @腰、脊椎への負担増加  A下半身が鬱血しやすくなった
■ 人類6属

人類は猿人→原人→旧人→新人と、単純に進化したわけではなく、160万年前にはさまざまな人類がいた。

450万年〜520万年前は化石が発見されていない空白の時代。

化石人類を含めた人類をホミニン(ヒト族)と呼ぶが、ホミニンはつぎの6種類から発展
  1. サヘラントロプス・チャデンシス
  2. オロリン・ツゲネンシス
  3. アルディピテクス・カダッバ
  4. アウストラロピテクス属
  5. パラントロプス属
  6. ホモ属


1.サヘラントロプス・チャデンシス
  • アフリカ中央部、チャドのジュラブ砂漠トロ=メナラで発見
  • 2002年にミッシェル・ブルネにより「ネイチャー」にサヘラントロプスを発表された一番古い人類。
  • 愛称「トゥーマイ」、東と南アフリカでしか発見されていなかったが、初めて中央アフリカで発見された。
  • 年代は600〜700万年前(分子証拠とも合う)
  • 犬歯の縮小、ホーニングの消失、など人類の特徴があり、脳の大きさは類人猿と変わらない。
  • 出現したジュラブ砂漠の環境は、現在は砂嵐の激しい砂漠地帯だが、人類が発生した地域はサバンナではなく、ナミビアのオカバンゴ・デルタのような、雨季になると水がたまり、疎林と湖沼、草原が混じる地帯と考えられる。
2.オロリン・ツゲネンシス
  • 2000年10月にM・ピクフォード、B・セヌによって、ケニアのチューゲンヒルズ(現在は砂漠ではなく赤土帯)で発見された。
  • 愛称「ミレニアム・アンセスター」で、600万年前の人類。
  • ヒトと判断した根拠は下記
    • 外閉鎖筋溝という溝が頸部にある
    • 負荷に耐えられるように底部の緻密質が厚くなっている
    • 歯のエナメル質が厚い(雑食に適応) にもかかわらず把握力は維持→樹上適応
  • 頭骨が発掘されていないので、脳の容量が測れない。
3.アルディピテクス・カダッバ
  • アメリカのティム・ホワイトたちがエチオピアのアファール低地で発見。1994年にアルディピテクス・ラミダス発表(440万年前)
  • その後も、古い地層を追究し、1997年に顎骨片を拾う。
  • トータル5個体分11点あり、そこから2つの年代に分かれる。
     若い方 520万年前 
     古い方 580万年前
  • 足指の骨が蹴り出しに適応→直立2足歩行の証拠
  • ホワイトの発見はいちばん早かったが、慎重だったので、ピクフォードらに出し抜かれる。
  • ピクフォードの発表は2001年7月「ネイチャー」で、「アルディピテクス・カダッバ」と命名。 ※サヘラントロプスの発表は2002年7月
4.アウストラロピテクス属(華奢型)、5.パラントロプス属(頑丈型)、6.ホモ属

160万年前には、ホモ属と、アウストラロピテクス属やパラントロプス属がアフリカで共存していた。
  •  東アフリカ 
    • アウストラロピテクス・ハビリス   
    • ホモ・エレクトス(ホモ・エルガスター)   
    • ケニアントロプス・プラティオプス
    • パラントロプス・ボイセイ
     
  • 南アフリカ 
    • ホモ属(ホモ・エルガスターか?)
    • パラントロプス・ロブストス
最古のホミニン3種

年代 頭骨 四肢骨
1.サヘラントロプス・チャデンシス 600〜700万年前 ×
2.オロリン・ツゲネンシス 600万年前 ×
3.アルディピテクス・カダッバ 520〜580万年前 ×


■ これらからの定説
  • 最古は600〜700万年前のサヘラントロプス

  • 直立2足歩行は森林で進化。 サバンナで2足歩行が始まったとする仮説は破綻。理由は、サバンナは肉食動物がいて、石器を持たない初期の人類が育つはずがないから。

  • 最古のホミニンが東アフリカに出現したのかどうかは、現在のところ不明。

    森林にいた人類と類人猿の共通の祖先が、アフリカ大地溝帯の形成により乾燥しサバンナ気候となったアフリカの東側で人類に進化し、西側では類人猿のまま進化したとする「イースト・サイド・ストーリー」説が有力な仮説であったが、サヘラントロプス・チャデンシスが中央アフリカのチャドで見つかったので、わからなくなった。
■ その後の重要な発見

2006年に次のような発見があった。
  • エチオピア、アラミスのアサ・イッシー標本群  410〜420万年前
    意義:
    • アナメンシスがエチオピアにもいた
    • アファレンシス(390万年前)とラミダス(440万年前)の間が埋まる。化石年代では20万年はそう長くない。
    • ラミダス→アナメンシスへの移行が急激に進む(ホワイトらによる)
    • 森林環境で2足歩行

  • エチオピア、ディキカの女児骨格  330万年前  愛称「セラム」
     意義: 
    • 3歳の子どもの骨、ネアンデルタール人以外では初めての骨格
    • 上半身は類人猿、下半身は直立歩行で人類 
    • 成長遅滞(ヒトには大きな脳があるために難産になるので、小さく生んで大きく育てる)がはじまっていた 
    • 舌骨(声を出すのに必要)の発見→ゴリラにそっくり


■ ホモ・サピエンスの誕生

250万年前頃 最初のホモ属出現(おなじころパラントロプスも出現)
  • 石器の発明 ゴナなど東アフリカ各地で
  • エチオピアで最古のホモ化石 233万年前 AL666−1      
    口蓋が幅広く、前後に短い、見事な放物線
  • アウストラロピテクス・ガルヒ 死肉漁りだが肉食
    石器による傷のついた羚羊類(カモシカ)の骨
    →脳拡大への道        
    →出アフリカ(第1次Out of Africa)=人類の画期
グルジアのドマニシで177万年前のホモ・グルジクスの人骨を発見。 
  • 完全に近い頭蓋だけでも4つ、骨格も
  • アフリカ系の多様な草食獣化石(石器のカットマークが付いている) 
  • 脳が小さい  
  • オルドワン石器
その後、世界に4種類の人類(10万年前)
  • アフリカにホモ・サピエンス 
  • ヨーロッパにホモ・ネアンデルターレンシス(ネアンデルタール人) 
  • アジアにホモ・エレクトス(ジャワ原人、北京原人) 
  • フローレス島でホモ・フロレシエンシス


2.ネコ・チンパンジーは言語をもっているか                 安本美典先生

■ 人間の言語の定義

スイスの言語学者ソシュールは、『一般言語学講義』でつぎのように言語の定義をおこなった。
  • 表現形式(シニフィアン):能記、記号表現「意味するもの」
  • 表現内容(シニフィエ) :所記、記号内容「意味されるもの」
そして、表現形式と表現内容が合体したものが言語の特徴であるとした。しかし、それだけなら、えさの前で鳴くネコでも言語持っていることになる。

ソシュールは更に記号の恣意性が必要であるとした。

つまり、単語の意味と音の結びつきが内的必然性を持たず、社会習慣として結びついていることが重要。

ネコは生まれつきの習性でえさの前で鳴くのであり、約束事を学習したうえで声を出すわけではない。これでは記号の恣意性があるとは言えず、猫は言語を持っているとは言えない。

フランスの言語学者メイエは「記号の性質がまったく恣意的であることだけが、史的比較方法を可能ならしめる」と述べる。

意味と音の結びつきに、内的必然性があったならば、一般法則をひきだすことはできても、言語の歴史を知るための比較は不可能である。

■ チンパンジーの言語

チンパンジーに人間の言葉を教える試みがある。チンパンジーでは、口やのどの構造による制限のために、多くの発音を教えるのは難しいことが分かり、手話による言語の教育を行った。

その結果、チンパンジーは160の単語を覚えた。また、二語文、三語文も作ることが出来た。

人間の子供は1歳ごろで一語文、2歳で二語文が使えるようになる。チンパンジーの造語能力は、幼児の造語能力とほぼ同じである。

鸚鵡、九官鳥は発声能力はある。しかし意味理解力はない。チンパンジーは意味理解力はある。しかし発声能力がない。人間にはその両方の能力が備わっている。

■ 旧人の言語

古人類学者の意見では旧人は言葉を持っていなかったであろうとする。

アフリカで出土したホモ・エルガステルに属する9才の少年の全身骨格の調査で、彼らの脊髄では会話に関係する呼吸制御が十分にできないとされ、彼はことばを話すことはできなかったと結論づけられた。



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