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第276回特別講演会
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1.歴博(国立歴史民俗博物館)・炭素14年による弥生年代遡上論の問題点 |
■ 論争によって古くなる年代
炭素14の量がどこでも一定であることが前提であるが、炭素14の生成や消滅のメカニズムを考えると、そうはならない。
国際較正基準が、世界のどこでも共通に使えるということはまだ証明されていない。 歴博の見解
国際較正曲線よりも実際のデータが古い側(上側)に偏って出現する例が多い。
エジプト考古学界では、炭素14年は考古学が与えた年代よりも200〜300年古く出るとして論争中。 イスラエルでも、炭素14年は考古学の年代より200〜500年古く出ている。 ■ 歴博の発表経過を追いかける。
新聞発表時のデータを国際較正曲線によって実年代に換算すると、BC800年付近に定まりそうだが、その後の新しいデータでは、較正曲線の平らな部分と交差し、弥生早期がBC500年付近とぶつかる可能性すらある。縄文晩期の突帯文土器の付着物を分析したが、更に新しくなった。 歴博のデータは、弥生時代中期・後期も何百年も古く出ているし、さらには古墳時代も100年ほど古く出ている。 ■ なぜ炭素年代は古く出るのか
■ 鉛同位体が示す弥生中期の始まり
春秋期以降まったく例のなかった商周期の鉛が、500年以上も経って、燕国、朝鮮半島、日本に突如として現れ、短期間で使用が終わってしまった。 『史記』によると、燕国の将軍楽毅が、BC284年に斉を攻撃して宝物や祭器を奪ってきたことが記されている。この時に楽毅が戦利品として燕国に持ち去った青銅器を原料として作られたさまざまな青銅器が日本に持ち込まれたと考えられる。 戦利品なので継続的な供給が出来ないため、短期間で枯渇してしまったのだろう。 弥生中期の始まりは、BC284から時差を見てBC250くらいになる。歴博のBC370ほどは古くない。 |
2.炭素年代法 安本美典先生 |
昨年5月の考古学協会の研究発表で、歴博は「箸墓古墳から出土した布留0式は3世紀中ごろと考えるのが合理的」と発表した。
しかし、歴博のデータからはそのように結論づけられないことを藪田紘一郎氏などが指摘した。データは幅があるのに、歴博はあたかもピンポイントであるかのように発表していたのである。 この他にも、炭素14年代法による弥生時代の年代についての歴博の研究結果についてはいくつか問題がある。歴博の研究の問題点について述べる。 ■ 炭素14年代法の誤差 まず、北海道埋蔵文化財センターの西田茂氏のデータをとりあげる。 江別市の縄文晩期の遺跡である対雁(ついしかり)2遺跡の土坑から焼けたクルミが多数発見され、炭素年代法によって年代測定をおこなった結果である。 西田氏は、土坑から同時に得られた20個のクルミ殻と、ひとつのクルミを20個に分割して資料にした。この土坑のクルミ殻は、すべてある年の秋に実ったものと考えられるので、測定値はほぼ同じような数値になるはずである。 しかしながら、20個のクルミの場合も、一個を20分割した場合も、年代測定値は右表や下図のようにばらついた結果となった。 このような状況から西田氏は、「放射性炭素年代測定値を用いた高精度編年は、いますこし再検討の余地がある」と述べている。 上記の測定値を国際較正曲線で実年代に変換すると、ちょうど2400年近辺の平らな部分にかかってしまい、たった一個のクルミの年代が数百年の幅を持ってしまう。 1σの幅で変換すると、BC760年〜BC480年で、280年の幅を持ち、2σだと、BC800年〜BC400年で400年の幅を持つことになる。(下図のピンク色の部分に、手書きで書き加えてある。) 炭素14によって年代を決めるには、誤差が大きすぎるように見える。歴博が意図している炭素14による高精度の編年は、西田氏も述べるように、かなり無理があるのではないか。 ■ 土器付着物を試料とすることの妥当性 また、西田氏は土器付着物の年代が、クルミや炭化物よりも古く出ることを指摘している。 左図は2004年に報告された対雁2遺跡のデータであるが、たとえば、資料Beta-186241と資料Beta-186229(○印)は、同一生活面の資料であるにもかかわらず土器付着炭化物のほうが640年も古くでる。 また、Beta186242とBeta-186231(△印)も同一生活面の資料だが、土器付着炭化物のほうが、600年古く出ている。 他の遺跡でも同様な観測データが得られている。 たとえば、千歳市のチプニー2遺跡では、炭化物と擦文土器付着物とのあいだに、650年の差が生じているし、根室市穂香竪穴群では340年の違いが現れている。 いずれも土器付着物のほうが古く出る。 これらのデータから、西田氏は、土器付着炭化物は「試料の妥当性」を欠くものであり、これらに依拠する弥生時代の始まりが早まるという見解には賛同できないと述べる。 ■ 歴博の問題点 歴博が考古学協会で発表した「弥生時代の新年代」には、藤尾慎一郎氏、小林謙一氏、坂元稔氏をはじめ、総勢11名の研究者が名を連ねている。 これだけの研究者が名を連ね、朝日新聞が報道すれば、一般の人は信じてしまう。 安本先生が、歴博発表の問題点を指摘した『季刊邪馬台国100号』を坂元稔氏に送り、電話で問い合わせたところ、その内容は藤尾氏に聞いて欲しいと言われ、藤尾氏に問い合わせると小林氏に聞いて欲しいと言われ、小林氏は大学の休みの期間でつかまらなかった。 大勢の専門家が名を連ねて、いかにも権威ありそうな発表にみえるにもかかわらず、その内容についてきちんと答える人がいないようである。 歴博のそれぞれの方の述べていることがバラバラで、だれも責任を持て回答する人がいない。遠くから見ると壮大だが、近寄ると蜃気楼のように消えていく。 留意すべきことは、現在、その数は、必ずしも多くはないが、北海道埋蔵文化財センターにしても、九州大学の田中良之・岩永省三氏らのグループにしても、国立歴史民族博物館とは別に、独自にAMS法による炭素14年代測定法による調査を行った人々は、国立歴史民族博物館のグループの得た結論とは異なる結論を得、調査結果に基づいて、歴博への批判的見解を表明していることである。 今後、各種の機関において、もっと多くの炭素14年代測定が行われる必要があるが、そして、多くの討論が行われる必要があるが、炭素14年代測定法は、なお、検討・討論を、これから十分に行う必要がある段階にあり、各調査機関のコンセンサス(合意)を得た結論を持つ段階にいたっていない。 この点、歴博が、みずからの得た結論を早急に信じ、基礎的なデータのつみかさねや、十分な検討・検証よりも、新聞などマスコミへの発表やPRを、とかく急ぐ傾向が見られることは残念である。 多数意見の形成や、宣伝活動は、科学的真実へ至る道とは、すこしルートが異なる。旧石器捏造事件の場合のように、教科書にのるほどの多数意見も、動かぬ証拠写真によって瓦解する。だからこそ、データの積み重ねや、十分な検討・検証がもとめられるのである。科学や学問と政治などとは異なる。 歴博への批判は、そのような点への疑念がしだいに大きくなっていることが、背景にあるように思える。 |
3.対談 |
安本:
箸墓古墳の歴博データでは、ピンポイントで年代は決まらず幅を持つと思うのだが、歴博の藤尾氏に問い合わせたら、ベージュ統計でやれば決まると言うことであった。
ただし、この手法については、弥生時代はじめはやったが箸墓ではこのような分析をやっておらず、詳しくは小林謙一氏に聞いて欲しいと言うことであった。 2つ問題がある。 ひとつは、箸墓古墳については明らかにピンポイントで年代が決まるようなことを、歴博はなにもやっていないことである。 二つめは、歴博の方法で本当にピンポイントで決まるのかという疑問がある。 寺沢薫氏の報告書では箸墓から出土した桃の種はずいぶん新しい年代が出ていることを話すと、藤尾氏の回答は、そのような値は異常値として除いてあると言うことである。 他のデータと200年ぐらい離れた値は異常値として除くのが歴博の基準のように見える。 他のものとちがうということで異常値として取り除いてしまうと、たとえば、箸墓で桃の種が数十個も出てきたら、数の多い桃の種が正常値になり、それまでの土器による正常値は異常値になってしまう。 異常値を除く基準がはっきりしていないし、基礎的データがしっかりしていないので、歴博のやり方では、年代をピンポイントで決めるのは難しいのではないか。 新井: 年代は普通は幅を持って推定する。弥生の最も古いのがBC1000年で、縄文のもっとも新しいものがBC500年になりそうなら、この間はオーバーラップしていると説明する。 歴博の発表は、弥生時代はどこまで遡るか、ということなので、弥生の一番古いところを示してやればよかった。しかし、縄文土器を測定すれば、かなり新しい年代も出てきてしまう。縄文の終わりを弥生時代の始まりにするということも歴博は出来なかったので苦労したのだと思う。 歴博は一番古い年代をピンポイントで定義しただけである。歴博はこの後発表した論文で、歴博が弥生時代と定義した期間に現れる縄文土器は弥生時代に属するはずなので弥生土器と見なすということを書いている。まったくおかしな話で笑ってしまう。 安本: 試料は前処理の際の収率(炭素含有率)が低いと古い年代が出るので、歴博では、試料の収量が10%以下のものは原則として測定しないとしている。 そうすると、10%以上は測定対象になるということだが、しかし、10%以下がダメなら15%、20%がOKという保証はない。収率10%以上でも土器胎土などのミネラル分の古い炭素の影響は残るのではないか。 新井:収率10%以下をなぜ測定対象から外したかというと、10%以下だと200年ぐらい古く出るから。10%で200年なら20%ならどうなるかというのは算数のカテゴリになるが、100年ぐらいは出るかも知れない。30%でも何十年か出るかも知れない。 名古屋大学は炭素14年代の発表の際は収率も発表している。歴博は公表していない。 安本:土器とクルミのように素材が違うとデータが違ってくる。素材差が大きく出ているのに、素材差の理由を十分検討することなしに異常値として取り除いてしまうのは問題ではないか。 新井: 安本先生の云うとおり。歴博は考古学者なので土器が多い。たまに木材や米粒を測定する。土器と同じ所から出た米粒を比較すると、100年ぐらい土器が古く出る。理由は別として状況が違うとシフトが出る。検討が必要。 安本:海洋リザーバー効果について精度はどうなのか 歴博の坂元稔氏が執筆した「炭素14年代法の原理」によれば、海洋生物は平均して400年古い炭素14年代を示すことが報告されており(グローバルリザーバー効果)、試料へのリザーバー効果の影響を識別するには、δ13C(標準試料に対するサンプルの炭素13の比率)が一つの手がかりになる、とされる。 δ13C の値がいくつならリザーバー効果で何年古く出るというような回帰式のような関係式はないのか。 新井:歴博はδ13C の値が2.4% を割ったら信用しないとしている。安本先生の提案はアイデアとしてはおもしろい。ただ、あまり異常な値はどこかで切った方がよい。 安本:年輪年代法なら相関係数を出して、それを有意性検定から判断する。ウイグル マッチングではそのような方法はないのか 新井:原始データが持っているバラツキを取り込んで似ているものを探す操作は可能 だが実際にはやっていないと思う。 2つのグラフが似ているかどうか、2つのグラフを重ね あわせて年毎にずらしながら、ずれ方の評価の基準(二乗誤差の合計)が一番小さな ところが確立が高い。確率分布でやっていると思う。 一づつのデータでやる方が良いように思われるが精度が上がるかというとあまり期待できない。 ウイグルマッチングは200〜300年でパターンを合わせるなら威力があるが、実際のウイグルマッチングをやっているのは50年か100年がせいぜいであり、その中で凸凹のきれいなものが2,3個そろえばいいと思っているのだろう。 |
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