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天皇一代平均在位年数約十年説


古代の天皇の平均在位年数は約10年
京都大学国史研究室編の『日本史辞典』(東京創元社)の巻末には、天皇の即位、退位の時期、およぴ在位年数の表がのせられている。この表には、『日本書紀』による神武、綏靖、安寧などの諸天皇の在位年数も記されている。

しかし、即位、退位の時期などを歴史的事実として信頼できるのは、第31代用明天皇ごろから以後である。用明天皇からあとの天皇の在位年数などは、『古事記』と『日本書紀』とでも一致している。

安本先生は、用明天皇以後、大正天皇にいたる98天皇(南北朝の北朝の天皇をふくむ)について、その在位の期間を算出し、ついで、時代を5〜8世紀、9〜12世紀、13〜16世紀、17〜20世紀の四つにわけ、おのおのの時代に即位した天皇の平均在位年数を求めた。

その結果は図1のようになる。


図1はつぎのようなことを示している。たとえば、5〜8世紀のあいだに即位した天皇で、在位期蘭のはっきりわかる天皇は20天皇がおり、そののぺの在位期蘭は218年間であり、したがってこの期間の一代平均在位年数は、10.88年である。

図1をみれば、平均在位年数は、上代にさかのぽるにつれて、短くなっていることがわかる。

なお、5〜8世紀、9〜12世紀、13〜16世紀、17〜20世紀という時代区分は、ほぼ飛鳥・奈良時代(〜794年)、平安時代(794〜1185年)、鎌倉・室町・安土桃山時代(1185〜1600年)、江戸時代およぴ現代(1603年〜)という時代区分とも重なりあう。

同様に、京都大学文学部東洋史研究室編の『東洋史辞典』京都大学文学部西洋史研究室編の『西洋史辞典』(以上、東京創元社) を使って、そこにのっているかぎりの王について調査した。





中国、西洋、および 、世界の王についての平均在位年数の調査の結果から、つぎのようなことがいえる。
  1. 時代をさかのぼるにつれて、平均在位年数のしだいに短くなる傾向は、天皇についても、東洋の王についても、西洋の王についても、かなりはっきりとみられる。

  2. 1〜4世紀の平均在位年数は、全世界的にみてもおよそ10年でかなり短い。そして、5〜8世紀においても、せいぜい10年(日本)から13年(西洋)であり、全世界での平均値は約12年(11.57年)である。

  3. 17〜20世紀の平均在位年数は、全世界的にみたぱあい、およそ20年である。これは、1〜4世紀の平均在位年数のおよそ二倍に近い。二千年近くのあいだに、平均在位年数は二倍にのぴているわけである。

  4. 西暦紀元以後の全時代の全世界の平均在位年数は15.79年で、あまり長いものではない。
「奈良7代70年」などといわれるが、日本のぱあい、5〜8世紀の日本の天皇の平均在位年数は、10.88年である。時代をさかのぽるにつれ、平均在位年数がしだいに短くなる傾向から推して、3〜4世紀の、天皇などの権力者の平均在位年数は、10.88年よりも、やや短めとみられる。

以上のように、同時代の中国の王の平均在位年数とくらぺるなど、断面データ的(共時的)にみても、わが国ののちの時代の天皇の平均在位年数の傾向から推定するというように、時系列データ的(通時的)にみても、わが国の古墳時代(3世紀末〜7世紀)の天皇の平均在位年数は、ほぽ10年と考えられる。


政治権カ者の平均在位年数
以上のような事実に、もうすこしデータをつけ加える。

徳川、北条など、天皇以外の、日本の政治権力者について、在位期間をしらべてみる。
  • 徳川家のばあい、1603年に、徳川家康が征夷大将軍となり、1867年に、徳川慶喜が大政を奉還している。その間、265年間に、15代の将軍が立っている。

    その一代平均の在位年数は、17.67年である。

  • 足利家のばあい、将軍の在位期間のあいだに、やや空位の時期があるので、ひとりひとりの在位期間を求め、その平均値を算出すれば、一代平均在位年数は、13.50年となる。

    また、空位のことを考えず、1338年に足利尊氏が将軍となり、1573年に足利義昭が織田信長によって追討されるまで、235年間に、16代の将軍が立ったことから、一代あたりの年数を求めれば、平均在位年数は、14.69年となる。

  • 織田信長、豊臣秀吉の二人が政権の座にあったのは、25年であったといえる(1573年7月に信長が、足利義昭を追ってから、1598年8月の秀吉の死にいたるまで)。一代あたり、12.50年である。

  • 鎌倉幕府のばあい、頼朝、頼家、実朝の源氏の三代と、北条時政から守時までの16人の執権が、為政者の位置にあった期間の合計は158年間で、一代平均の在位年数は、8.32年である。

「江戸時代」「室町・鎌倉時代」「安土桃山時代」「鎌倉時代」の為政者の平均在位年数をまとめれば、図5のようになる。

やはり、平均在位年数は、時代をさかのぼるにつれ、短くなっている。

これらのデータをまとめなおして、9〜12世紀、13〜16世紀、17〜20世紀の、世紀別にあらわすと、図6のようになる。

図6による為政者の平均在位年数と、図1に示した同時代の天皇の平均在位年数とをくらべてみる。どの時代においても、直接の為政者のほうが、天皇よりも、平均在位年数が、短くなっている。



同じ時代をとったばあい、直接の為政者のほうが、天皇よりも、平均在位年数が短くなるのは、直接の為政者のほうが、政治的な権力に近いためと思われる。

直接政治権力の座にあるものの平均在位年数が、そうでないものの一代平均の期間よりも短くなるのは、おもに、つぎの二つの理由によると思われる。
  • 政治権力の座は、他からねらわれやすい。

  • 放治権力の位置にあることは、なんらかの責任をともなう。心身が、そのような責任をはたしうる条件にある期間は、それほど長くはない。
なぜ古代ほど天皇の在位年数は短くなるか
天皇の平均在位年数が、古代にさかのぼるにつれ短くなるのは、つぎの二つの条件が働いているためといえそうである。
  1. おもに生物学的な条件

    中国、西洋をはじめ、ほぼ全世界的に、時代をさかのぼるほど、「王」の平均在位年数は、短くなっている。食物、病気その他の関係で、古代では、平均寿命も、短かったであろう。このような、おもに生物学的な条件のため、時代をさかのぼるにつれて、平均在位年数は短くなる。

  2. おもに政治的な条件

    古代においては、天皇が、直接的に政治権力をもっていた。封建社会が成立し、南北朝の動乱を経て、天皇は、しだいに、直接的な政治権力からはなれていった。そのため、天皇の地位はかえって安定し、平均在位年数は、長くなってきた。


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