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三角縁神獣鏡の銘文 |
三角縁神獣鏡は、中国では1枚も出土していない。
しかし、この鏡については、古代史の大きな謎の一つとして、次の二つの説が対立し議論が続いている。
■ 方格規矩四神鏡の銘文 (この鏡は、前漢末に現われ、後漢に流行した。) 1.方格規矩四神鏡(尚方鏡)の銘文 ・句末の押韻 各句末の押韻字(◎の字)を日本の音読みで読むと、コウ・ロウ・ソウ・カイ・ホウ。この中で「海」だけが例外のように見えるが、音符(漢字の音を表す部分)の「母」は、音読みでポウと読める。「海」はも とは「母」に似た発音であり、漢代では「好」や「老」と押韻できた。 ・平仄のルール(平声と仄声の配列法) どの句も、2字目と4字目の平仄が異なっており「二四不同」のルールが守られている。また、 2字目、4字目に平声、仄声のどちらを配置しているかをみると「反法」(第1句と第2句、第3句と第4句の 平仄の配列が異なる)や「粘法」(第2句と第3句、第4句と第5句の平仄の配列が一致)などが守られている。 なお、この銘文は、従来の中国語学や中国文学の通説よりも早い時期に、近代詩と同様の韻律ができていたことを示す意味でも注目されているという。 ○と●の配置に注目すると、(○は平声、●は仄声で、両者は主に高低アクセントの相違)この銘文は唐代の近体詩と同様の韻律が、早くも漢代に起こっていたことを示している。 2.方格規矩四神鏡(言鏡)の銘文 ・句末の押韻 各句末の字は上古音(先秦時代を中心とする音韻)ではすぺて同じ韻で、後漢の韻文でもきっちりと押 韻している。 ・平仄のルール 平仄についても、先の尚方鏡とまったく同じ韻律を備えている。 第1句の「言之紀従鏡始(七言の紀は鏡より始まる)」では、七言句の紀律の起源が鏡の銘文にあることを自ら唱えており、鏡の銘文は、韻を踏むものであることを示している。 ■ 三角縁神獣鏡(景初三年鏡)の銘文 三角縁神獣鏡が魏の鏡だと主張する人たちの最大のより所は「景初三年」鏡(島根県神原神社古墳出土)である。景初三年(239年)は魏の明帝が卑弥呼を親魏倭王に任命した年だからである。 しかし、この三角縁神獣鏡は、方格規矩四神鏡の後に現れたにもかかわらず、銘文の韻律はひどいものである。 ・句末の押韻 第3句の「述」と第5句の「出」が隔句韻を踏むだけで、他はまったく押韻していない。 ・平仄のルール 平仄の韻律は、まったく無視されている。 森博達教授は述べる。
そもそも魏の時代は、曹操父子を中心として詩壇が形成され、「建安詩」「正始詩」の時代と
して文学史上高く評価されている。詩は銘と同じく韻文であり、音韻の知識も深まっていた。
卑弥呼を親魏倭王に任命した景初三年は、まさにこのような詩文隆盛の時代である。
(2000年9月12日毎日新聞を元に構成) |
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