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古史通を編む

(季刊邪馬台国137号 巻頭言)                      編集部



季刊邪馬台国137号


  1979年7月に創刊した『季刊邪馬台国』は、皆様に支えられ、創刊から40年の年月を重ねて参りました。記念すべきこの節目の年を迎えることができたことを慶ぶと共に、深く感謝申し上げます。
  40年前の7月、ソニー社からヘッドホンステレオ「ウォークマン」が発売された。今や音楽はダウンロードする時代となり、カセットも必要とせず、いつでも聴きたいときに聴きたい音楽を、すぐ手に入れることができるようになった。40年前、これほどのテクノロジーの進化を誰が想像できたであろうか。そしてテクノロジーの進化とともに、人々の生活スタイル、文化はどう変わっていったのだろうか。
  一方、邪馬台国である。この40年で邪馬台国研究、そして考古学会はどう変わっていったのであろうか。40年の月日を持ってしても、邪馬台国論争の決着は未だついていない。しかし、着実に研究は積み重ねられ、前へ前へと進んできていることは間違いない。
  邪馬台国研究の歴史を紐解くと、その本格的な研究の始まりは江戸時代の学者、新井白石にたどり着く。新井白石は『古事記』や『日本書紀』における神話を、歴史的事実として解釈し、日本ではじめて科学的に神話の世界にメスを入れた考古学界のパイオニアとも言えるだろう。新井白石が1716年に記した全4巻の『古史通』と、邪馬台国について記述がある付録『古史通或問(わくもん)』3巻は、宗教的・神秘的解釈を避けた、非常に合理的な古代研究書であった。今日の考古学的考察や研究は、この新井白石の研究の上に成り立っていると言っても過言ではないだろう。
  僭越ながら本誌『季刊邪馬台国』も「科学的な見地に立つ」という信念を大事にして編纂を続けている。『季刊邪馬台国』の編纂は、現代版『古史通』を編むことではないかと思う。無論、それは我々編集部の力だけでは到底成しえないことだ。だからこそ、プロアマ問わず、全国の研究者、古代史ファン、そして読者の皆様の力を借りて、知の巨人に現代ならではの集合知で挑みたいと思う。
  今回の記念号では、多種多様な方々から記念のエッセイ・記念論文を多数いただくとともに、邪馬台国論争の総まとめと最前線を特集している。長年、邪馬台国を研究されてきた方はもちろん、古代史に興味を持ち始めた方々にも入門書として読んでいただければ幸甚である。本書が現代版古史通の新たな1ページを編むことにつながることを願う。

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