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徐福は夢か幻か

(季刊邪馬台国136号 巻頭言)                      編集部



季刊邪馬台国136号
 

 アフリカ大陸で誕生した人類は、およそ10万年の時を経て、世界各地へとその居住地を広げてきた。これほど広範囲に拡散した動物はおらず、そのため、人類は「ホモ・モビリタス(移動するヒト)」とも呼ばれている。
  現代社会においても、旅行や仕事、はたまた国際結婚や移住など、さまざまな目的で、人類は移動を繰り返している。生まれ育った地域への郷土愛こそあれど、やはり地域の外に出てみたくなる衝動は誰もがお持ちではないかと思う。人類は、どうしても移動せずにはいられない性分のようだ。

 『季刊邪馬台国134号』の特集でも触れたように、人類は約3万年前に「意図的な航海」によってはじめて日本列島にやって来たとされている。「最初の日本列島人」誕生から長い時を超え、今度は4世紀頃から渡来人と呼ばれる移住者が日本列島にやってくることとなる。
  しかし、4世紀の渡来人伝来よりもさらに前、その先駆けとなったのが徐福ら一行だったのかもしれない。徐福は紀元前210〜219年頃、秦の始皇帝の命を受け、不老長寿の薬を探しに日本列島にやって来たとされている。
  徐福は実在の人物ではないとする見解もあるが、中国、韓国、日本、それぞれ多数の徐福伝説が残っているのも事実である。たとえ空想の人物だったとしても、これほどまで広範囲に、徐福伝説が語りつがれている現実は、看過できるものではないだろう。徐福伝説は「移動する民」の象徴のひとつであり、人類の「移動」に対するロマンのようなものが込められているのではないかと思う。

 本号では、全国各地に伝わる徐福伝説のなかから、徐福の上陸地と伝わる佐賀、徐福の居住地であったとされる和歌山、そして徐福かたどり着いた地とされる神奈川を中心に、徐福伝説を世界無形文化遺産に登録しようという取り組みまで紹介している。

 今年3月に佐賀市内で開催されたNPO法人佐賀徐福会主催のシンポジウムも拝聴させていただいたが、国立科学博物館の篠田謙一氏による、古人骨のDNA解析という見地から迫る、徐福渡来の可能性。佐賀城本丸歴史館の七田忠昭氏による、佐賀の弥生時代遺跡と古代中国の城郭との共通点を中心とした文化交流の可能性など、非常に興味深く、これからの研究によって、徐福伝説をはじめ、日本列島人と移住にまつわるロマンが解明されていくことが大いに期待できる内容であった。本号の特集も、徐福研究、さらには日中韓の文化交流を促すひとつのきっかけとなることを願いたい。

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