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弓馬の道の源流へ

(季刊邪馬台国142号 巻頭言)                      編集部



季刊邪馬台国142号

 武士の必須教養と呼ばれているものに「弓馬」がある。
「弓」は自らの心身をコントロールする術を磨く教養。そして「馬」は乗馬する技術を身に着けるのはもちろんだが、その真意とは、「思い通りにいかない相手(他者)とコミュニケーションをとること」にあったという。
  その「思い通りにいかない相手」、つまり種族を超えた他者とのコミュニケーション能力こそが、ヒトを人たらしめたひとつの要因なのかもしれない。

 その類まれな能力によって、人類は様々な動物を家畜化させてきた。一説によると、その能力を育んだのは、最も早く家畜化された「イヌ」との共生だといわれている。
  少なくとも1万年以上前に家畜化されたイヌに比べ、馬の家畜化はおよそ3千〜5千年前頃と遅い。しかし、馬の家畜化は産業革命にも匹敵するほどの革命であり、人類に劇的な変化をもたらした。蒸気機関の登場によってその座を奪われるまで、馬は交通の要であり、軍事力の象徴でもあったのだ。
  それはすなわち、どれだけ多くの馬を飼育できているか、馬の能力を活かす技術がどれほど発達しているかが、国力の大きさ・文明の発達度合を表していたといっても過言ではないだろう。

 それほど重要な存在であったからこそ、馬は古来より重宝され、あるいは神聖視すらされてきた。きらびやかな馬具などの装飾や、馬の埋葬、神話や文献などでの記述から、その一端をうかがい知ることができるだろう。
  馬を起点に、古代社会の様相や精神性、そして文化の伝播を読み解くと、馬が支えたのは、人類の文明だけではなく、精神性でもあったのではないかということが見えてくるように思える。
  馬は現代の我々になにを教えてくれるのだろうか。本書の特集が、馬と人類の新たな一ページを開くことを期待したい。

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