十九世紀初頭のアメリカの小説家、エドガー・アラン・ポウに、『こがね虫』という短編小説がある。
『こがね虫』には、ルグランという男が登場する。ルグランは、羊皮紙にかかれた暗号文を解読して、海賊キ
ッドの宝物をみつけだす。
ルグランは、つぎのようにして解読していく。英語の文字を、使用頻度の高い順にならべると、だいたい、
e、a、o、i、d、h ・・・のようになる。
英語では、eが一番多く用いられることと、eeという続きかた
の多いことから、まず、羊皮紙の8という記号がeであると解く。
つぎに、48というくみあわせが、何度もあ
らわれることから、それに、英語でもっとも多く用いられるtheという単語をあてはめる。 ・・・
金石文の読み方にも、暗号解読学の原理を、応用すべきである。
石や刀などに刻まれた文字は、たいていのばあい、剥落したり、摩滅したりしている。そのため、読めない
文字がでてくる。
読めない文字は、信念や着想の面白さなどによって読むべきではない。
前後の読める文字から、どの文字のあとやまえには、どのような文字が来やすいかなどを、考慮して読む。
統計学的にいえば、どの文字のあとには、どの文字が来やすいかなどの、推移確率(遷移確率)にもとづいて、
なるべく、客観的に読む。
あるいは、全体的な文脈から、使用される確率の高い文字を考える。
文章は、一定のリダンダンシイ(冗長度)を持っている。必要最小限の、文字で記されているわけではない。
国の名前が記されているような文脈のなかで、「アメ□カ」という語の□のなかを推定せよ、といわれれば、当
然□のなかの文字は、「リ」となる。「ア□リカ」ならば、□のなかは、「メ」なのか、「フ」なのか。国の名前
に限定されるならば、「メ」となる。
答えが一つに定まらなくても、どの文字である確率が大きいかを検討することはできる。
金石文解読学は、客観性をもった科学をめざすべきである。
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