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安本美典 | ||||
新聞は、世論をミスリードしないで欲しい(季刊邪馬台国90号 巻頭言) |
さる10月9日(日)、佐賀県立美術館ホールで、「新・吉野
ヶ里シンポジウム=邪馬台国への道・九州説に理あり」が開
かれた。主催は、佐賀新聞社と、国営吉野ケ里歴史公園事務
所である。
高島忠平、七田忠昭氏などをはじめ、講演者・パネリスト 七人が、「邪馬台国=九州説」の論陣をはり、近畿説への疑問 をのべた。本誌の編集責任者の安本も、講演者として参加した。 古墳時代以降の出土物が、畿内に多く、畿内説の学者が、 マスコミに意見を発表する機会が多いため、マスコミの風潮 は、とかく、「邪馬台国=畿内説」に流されがちとなる。 しかし、邪馬台国問題に関するかぎり、基礎的なデータをきちん と整理すれば、どう考えても、「邪馬台国=大和説」が、成立 しうるとは思えない。 『魏志倭人伝』に記されている「鉄の鏃」などでも、福岡県 での出土数は、奈良県の出土数の約百倍である。 「邪馬台国=畿内説」に立つ考古学者たちは、考古学的な具 体的な「事実」を、ほとんどまったく無視して、『魏志倭人 伝』に書かれていない土器などをもちだし、「理屈」によっ て、「畿内説」を成立させているのである。 先日も、『朝日新聞』を読んでいたら、「最古の古墳? 学生 が『発見』」という記事がのっていた(2005年11月4日 朝刊)。 記事を読むと、読者を、ミスリードするような文章・文言 が多い。 たとえば、「日本最古の古墳とされてきたホケノ山古墳 (3世紀半ば)などという文言がある。 この「3世紀半ば」などということばも、そう考えている 考古学者もいるが、そう考えていない考古学者もいる。あた かも、定説のように書かないで欲しいものである。 ホケノ山古墳からは、画文帯神獣鏡が出土している。 中国で三世紀半ばを中心とする北方の魏や晋の国で、もっ ぱら出土する鏡は、「位至三公鏡」や「蝙蝠鈕座内行花文鏡」 などの鏡である。そして、これらの鏡は、日本では、おも に、福岡県や佐賀県などの北九州から20面以上出土し、奈 良県からは、一面も出土していない。 画文帯神獣鏡は、日本では、「位至三公鏡」や「蝙蝠鈕座内 行花文鏡」などの中国の北方系の鏡のあとの時代に、もっぱ ら出土するもので、中国の南方系の鏡である。 画文帯神獣鏡が出土していることなどからみて、ホケノ山 古墳は、西暦300年前後の築造ではないか。 『魏志倭人伝』には、倭人の葬制について、「棺あって、槨な し」と記されている。この点でも、ホケノ山古墳には、「木槨 が存在し、『魏志倭人伝』の記述とあわない。のちの時代の『随 書倭国伝』の「死者をおさめるに棺槨もってする」と一致す る。 また、さきの『朝日新聞』の記事では、「卑弥呼の墓という 説もある箸墓古墳(3世紀半ば〜後半)」などとの文言もある。 箸墓古墳は、周濠から、馬具が出土している。ずっと時代の 下る四世紀後半の築造ではないか。『日本書紀』も、箸墓は、崇 神天皇の時代につくられたと記している。そして、崇神天皇の 陵墓は、四世紀半ばから後半ごろ築造されたとみられている。 「事実」を無視した特殊な学説や、新聞の記事などにまどわ されてはならない。公的機関の発表も、意図的なものが多す ぎる。新聞は、公的機関の発表も、「事実」に照らしあわせて 検討すべきである。 第二次大戦中の例などをみればわかるように、世論をミス リードすること、新聞よりもはなはだしいものはないのである。 ただ、邪馬台国論争についていえば、「邪馬台国=九州説」 「邪馬台国=畿内説」の学者たちが、たがいに気勢をあげ、宣 伝しあうだけでなく、一堂に会して、徹底した議論を行なう ことがのぞましい。 |
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